竹田/ヨーロッパ・グルメあれこれ

竹田泰三

 2016年6月の例会に出席したのは、池田君、出羽君、倉田君、傍士君と私の5人でした。 
出席者は4ー5人と言うのが最近の定番、多田君が所用で来られなかったことを除けば常連の顔見せと言うことになりました。今回の話題は「食べる喜び」で話そうと言う事になっていましたが、私にとっては最も不得意な話題、mailを頂いた時点で困ったなと思っていました。 
 私の幼少時代は、家が開業していたせいで乳母に育てられ、あまり美味しいものを食べた思い出がありません(乳母には大変世話になりました)。大学時代は、学食、たまに河原町の眠眠で湯麺、餃子にジンギスカンかニラ炒めを食べるのが最大の贅沢でした。卒後2年で結婚しましたが、当時の、おそらく今の研修医も同じでしょうが、帰宅は早くて10時、遅いときは12時でした。家内は銀行員の娘、7時頃には食事を作り、今か今かと帰りを待って、食事に火を通します。当然、煮詰まり、味は濃く成ります。ある日、うかつにもこのお吸い物はえらく塩っぱいな言ってしまいました。彼女曰く、この瞬間にプッツンしたと。長浜市民病院に赴任の2年半は彼女の手料理を食べましたが、滋賀医大時代は、彼女が阪大の歯学部に入学で、私の里から通学、半別居生活でしたから彼女の手料理は食べず。阪大を卒業すると、程なくアメリカ留学。彼女も歯科矯正学講座でafter-graduate course履修のため大学通い、ろくな食事を作らないAmerican wifeになりきって(きっと、彼女に合っていたのでしょうね)、料理修業はせず。帰国すると、高知に赴任。彼女は、しばらく歯科診療をしていましたが、実験をする方が面白いと言って、私の実験を手伝うようになって、また、深夜まで大学に立てこもり、弁当生活が始まります。こんな訳ですから、「食べる喜び」は私には無縁の存在です。 

 では、うまいものが分からないのかと言われると、そうではないと反論したくなります。職業柄、接待をする、または、接待を受ける立場に長年ありましたので、京都に限れば、超高級料亭はほとんど行っていると思います。確かに美味しいとは思うのですが、私の食の履歴からなのでしょうか、もう一度行きたいと思ったことはありません。ただ、高知よりこちらに帰ってきて驚いたのは、阪神間の人がなんとまずいものを口にしているかと言うことでした。私の住む近くには、関西スーパーというそこそこの規模のスーパーがありますが、夜の8時、大きなロールスが陣取っています。彼らも、こんなまずい食品の残り物をあさっているのかと思うと、納得というか、当地ではあまり食には期待しない方がよいと思う様になりました。
 ところで、最近、家内が家庭菜園をする様になりました。特に実入りが悪いと言うこともないのですが、薹が立ったアスパラガスや、やけに筋がはいった三つ葉で大変迷惑しています。このお吸い物は三つ葉どんぶりだなと嫌みを言ってもどこ吹く風、意に介しません。結婚50年の歳月は、こうも女を強くするのか、または、面の皮を厚くするのかと考え込んでしまいます。でも、女が強くなったのは悪いことだけではありません。やれ、薬学部だの、歯学部だの、はたまた、高校の同窓会などと、まあよく遊びに行くか思えば、奥様方の勉強会?社会貢献の会?よく分かりませんが、とにかく、よく家を空けます。しかし、わたくしにとってはこれを幸いと、近くのコープで3割引き、半額の好きなものを探して食べ、一時の幸せを味わっています。前書きが長くなりましたが、こんな状態ですから、「食べる喜び」など書けるわけがないと言ったのですが、倉田君は「ヨーロッパグルメあれこれ」をテーマに書いてくれと言いますので、仕方なく筆を進めます。 

 ご当地版のグルメと言えば、イギリスはだめです、ドイツも美味しいものはありません。ドイツを旅すれば、衣の付いた揚げ物、日本で言うカツレツにあたるシュニッツェル(Schnitzel)を食べるのが無難です。ただ、4ー6月に行くチャンスがあれば、white Asparagusは格別です。北欧は、保存食の燻製がメインで、エルクの肉などは少し癖がありお勧めではありません。ただ、ストックホルムで食べたサーモンステーキは大変美味しいというか、日本で食べるサーモンより何倍もデカイ切り身が出てきてびっくりします。 同じようなサーモンは、ブリュッセルのグランプラス広場でも頂けます。テラスに出て、青空の下で食べるのも一興です。ベルギーは魚介類が豊富で、貝類の盛り合わせも美味しいです。そうそう、ベルギーと言えばビールを忘れてはなりません。古都、ブルージュに行けば、北のベニスと言われる古い街並みを散策すると同時に、旧市街に点在するビール醸造所を訪れ、食事かたがた地ビールを楽しむ事を勧めます。 


 美味しいものがたくさんある地域と言えば、やはり南欧です。我々が、洋食と認識している料理は、カトリーヌ・ド・メディシスがイタリアから持ち込んだ料理が進化したもの、所謂フランス料理です。だから、フランスではどこに行っても美味しいものは頂けます。しかし、お勧めとしてはボルド-周辺で、良いお店があります。一例を挙げると、フランスの美しい村の1つであるGensacのLes Remparts Hotel(http://lesremparts.net/fr/)です。ご夫婦が経営されているお店で、前面に広がる広大なボルドーの森と共々、料理が大変美味しいです。私たち夫婦は基本的には別メニューを頼むのが習慣になっていますが、この時、「お肉のお味はどう」と聞かれ、つい、「おまえにはやれん」と言ったら半分かっさらわれました。今でも、時々あのお肉は本当に美味しかったねと話題になりますが、私にとっては残念な思い出です。 
 牡蠣料理は、パリ、オペラ座の前でも食べられますが、やはり、ボルドーでしょうね。私のお勧めは、ボルドー近郊のビアリッツです。ナポレオン3世のお后の離宮がある有名なリゾート地です。立派なホテルが建ち並んでいますが、海岸沿いの小さなレストランで十分美味しい牡蠣が食べられます。日本人の目にはとても食べきれないかと思われるほど、大きな皿に牡蠣、ムール貝、etcが山のように並べられています。


夕日が沈む赤く染まった海を観ながら、白ワインを飲み、生牡蠣を食べるのは格別ですが、ここでも家内にしてやられました。まあ、たくさんあるので被害は少なかったですが。 フランス料理と言えば、マルセイユのブイヤベースも捨てられません。地元の味を是非とも味わって下さい。 
 スペイン料理と言えば、皆はパエリアが頭に浮かぶと思います。しかし、この料理ほど当たり外れの多い料理はありません。パエリアの発祥の地はバレンシアとバルセロナで、それぞれ味は異なりますが、皆が食すのはバルセロナと思います。ただ、ここで注意するのは、ガウディの奇妙な街灯があるレイアール広場では食べないことです。この広場は有名な観光地で、名の知れたレストランもありますが、私の経験では、美味しくなかったです。雰囲気を楽しもうと思えば、少し町の中心から離れますが、海岸地区が良いです。昔は、日本の海水浴場にあるような小屋でしたが、最近は再開発され、清潔なレストランが建ち並んでいます。世界遺産の「カサ・ミラ」の近くにも美味しいパエリアの店が最近あるそうですが、私は知りません。 
 スペイン料理で落としてはならないのは、生ハムです。私は、グラナダ、アルハンブラ宮殿の付属施設で開かれた国際学会の晩餐会でたらふく食べました。出席者は、洋の東西を問わず、皆、大満足でした。感激した京大教授は生ハムの大きな一塊を買いました。そんなの税関を通るのと聞きましたが、何も問題がなかったようです。生ハムですからどこでも食べられると思います。皆さんもスペインに行けば是非とも食してみてください。 
 スペインは州によって食文化が大きく異なるようで、豚足や脊椎の煮込み、濃厚な豆の煮込み「ファバーダ」なども有ります。一度、水道橋とシンデレラのお城のモデルになった白亜の城で有名なセコビヤで食しました。ただ、メニューがスペイン語でよく分からず、高ければ良いだろうと思って注文しましたが、奇っ怪な形をしていました。食通にはたまらないのかもしれませんが、すでに述べたように、保守的な舌をしている私にはあまり受け付ける味(形?)ではなかったです。 
 イタリアは、西はジェノバ、ピサ、北はシエナ、ラベンナから南はシシシリーまで、いろんな所を回りましたが、バチカン、システィーナ礼拝堂近くのレストランを除いて、レベルの違いはあっても全て◎でした。どこでもお上りさんが来るところは良くないのですね。 高級料理は、フィレンツェのエノテカ・ピンキオーリ(Enoteca Pinchiorri)で頂きました。世界的に有名なレストランで、皆さんも名前だけでも知っておられるのではないかと思いますが、本店は大変格式のある古い貴族(フィレンツェですから商人?)の館です。ディナー のフルコースと、ワインのフルコースをオーダーしました。数時間の食事を、サーブする方が適切に場を盛り上げていただき大変楽しいディナーでした。値段は少々張りますが、日本のことを思えば、たいした値段ではありません。ローマなら、「甘い生活」で有名なヴェネト通り界隈のレストランが、雰囲気があって良いですよ(もっとも、値段の割には、不味いという噂もありますが)。皆は、イタリアなら「パスタ」だと思っていると思います。昨年は、シシリーに渡るため、イタリアの長靴の先に当たるレッジョ・ディ・カラブリア に逗留、久々に美味しいパスタにあたりました。Grand Excelsior Hotel Reggio Calabriaの屋上で、メッシーナ海峡を挟んでシシリーの灯火を観ながらの夕食で、私の好きなボンゴレと鱈のムニエルをオーダーしました。これは大変美味しく大満足でしたが、今回は、家内はいつもの租税徴収、無言で半分持って行きました。長年しつけが出来ていないのだから仕方がないか、残念。 


 グルメの話をするなら、ワインの話もしなければ成りませんが、今回はやめておきます。食事を盛り上げるのは、その場所の雰囲気も重要です。イギリスの古城での食事など上げるときりがありませんが、1つ綺麗なレストランを紹介して終わりにしたいと思います。 イタリアアドリア海側、バーリ近郊の海沿いにあるアーチ型の鍾乳洞を利用した洞窟レストランです。大変綺麗です。チャンスがあれば是非行ってみてください。 
 レストラン「グロッタ・パラッツェーゼ」(http://www.moshtravel.com/grotta-palazzese/)。 

 <今年の冬も、また集合!楽しい話の花を咲かせましょう。 >